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れてきたということです。外来であろうと、往診であろうと、訪問であろうと、いずれも大きな働きではあるのですが、そうした働きを通してホスピタリティに徹するためには、そこに働く専門職に一つのあり方が必要になってまいります。
いくつか申し上げたいと思いますが、まず第1は人間理解、人間観の問題です。
数年前に私は親しい一人の若い女性を失いました。28歳。交通事故でした。一瞬にして召されました。私はその女性を失って、私の胸の中に隙間風が吹いたのです。そしてその女性の持つ存在感をあらためて認識できたということがありました。
この女性と毎週2時間私は行動を共にしていました。たいへんすぐれた能力をもった女性で、音楽を聴くと数秒にしてその曲の名前を言うのです。べートーベンのソナタの何番から北島三郎まで、実に幅広く数秒にしてすぐ曲名を当てました。
あるとき、ファミリーレストランに行って、その同じレストランに2ヵ月後にまた一緒に行ったのです。そこに入っていったら、その女性が、そこで5人の働いていたウエイトレスの名前を言ったのです。「何々さん、何々さん、何々さん、こんにちわ」。驚いたのはお客さんたちです。もっと驚いたのは呼ばれたご本人でした。なぜ名前を呼ばれたか。見るとそれぞれの方の胸に名札がついていました。2ヵ月前に読み取った名前をそのまま呼んだのです。頭の中がコンピューターのようにできていた女性でした。
本を読むのに100ページ目のどこそこと申しますと、その女性は100ページをいきなり開くことはできないのです。1ページ目からページをくくって100が出てくるまでめくり続けます。99の次が100で100の次が101という数の概念がないのです。コミュニケーションは一方的。これが自閉の特色です。
こころやさしい女性で、まわりでみんなが古い切手を集めて、その女性に毎週渡していました。その女性は日曜日の午後4時間

 

 

 

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